プログラム医療機器とは、医療機器の機能を持つプログラムが搭載された記録媒体のこと。睡眠をモニターできる時計もその一種と言えます。
医療機器は、疾病の診断・治療・予防において、方針を決めるときに参考とする数値を提示するのが大きな役割です。
プログラム医療機器は、「疾病の診断に用いるもの」と「疾病の治療に用いるもの」の2種類あります。画像を大量に学習したAIを活用した画像診断支援システムが診断に用いるプログラム医療機器です。医師が処方して患者がスマートフォンにインストールして使用する治療用アプリなどは治療に使います。
身近な医療機器には体温計や血圧測定器などがあります。人工呼吸器やCT、AEDなども医療機器です。プログラム医療機器は、こうした様々な医療機器の中でも特にプログラムを用いた医療機器のことを指しています。医師や看護師が使用するだけでなく、患者本人が使用するアプリもプログラム医療機器です。
プログラム医療機器はソフトウェアであるため、アップデートが必要な点に大きな特徴があります。ソフトウェアは常に脆弱性への対応が必要です。パソコンをアップデートするのと同じで、プログラム医療機器も新しいOSや発見された脆弱性への対応のため、アップデートを行います。機器を買い換えなくても、アップデートすることで、最新の技術やデータを取り入れて機能向上できることがメリットです。
IT機器ですが医療機器のため、薬機法に基づく承認審査を受けなくてはいけません。
プログラム医療機器の誕生の背景は、診断と治療それぞれの観点から考えることができます。
診断においては、医師のサポートがプログラム医療機器の誕生の理由です。人の能力には差があり、また限界があります。医師の経験や能力によって、診断力にも差が生じてしまいます。プログラム医療機器であれば、大量に画像を学習させるAI技術を活用し、人間が一生かかっても覚えられない膨大なデータを覚えさせることが可能です。
覚えたデータを元に病気の特徴を見つけることはプログラムの得意領域であるため、プログラム医療機器と医師が一緒に診断することで、病気の早期発見や病気の見逃しの減少につながると期待されています。
治療においては、患者の日々の生活習慣改善が目的です。高血圧など生活習慣病は、食事や運動といった生活習慣の見直しが不可欠ですが、医師からのアドバイスだけではなかなか実行できません。日々の生活習慣のチェックも難しいでしょう。
治療用アプリであれば、食事指導や規則正しい生活への改善ポイントを提示しやすく、たまったデータを医師がチェックすることでより的確な指導を行えます。服薬中心の治療法から生活改善も取り入れた治療法へと治療の考え方が変化してきたこともプログラム医療機器の誕生につながっています。
プログラム医療機器が医療機器である以上、薬機法の承認が必要だということは既に述べた通りです。医療機器が人の身体に何らかの影響を与える可能性があるため、その安全性を確保しなければいけません。また、機器が取得するデータの有効性も重要です。医療機器として問題がないかどうかを審査されます。
厚生労働省では、日本国内のプログラム医療機器の承認を進めていますが、その承認には時間がかかっているのが現状です。世界中でプログラム医療機器が次々と開発される中で、日本では特に承認に時間がかかっているため、開発も遅れています。こうした状況を踏まえて、効率的な承認への取り組みを行っています。
2014年に薬事法が改正され、医療機器規制に関する章が医薬品から独立しました。旧薬事法では、ソフト部分のみでは薬事法の規制対象とならず、ハード部分に組み込んだ形で規制していましたが、改正後は、単体のプログラムが医療機器の範囲に含まれることが明確化して、プログラム医療機器が規制の対象となりました。
引用元:MDV EBM insight(https://www.mdv.co.jp/ebm/column/article/31.html)
2020年にIDATENが法制化されました。IDATENは「Improvement Design within Approval for Timely Evaluation and Notice」の頭文字を取った略称です。AIを活用したソフトウェア医療機器等、製造販売承認取得後に性能向上が予定されている医療機器に対して、その性能等に関する変更計画について、独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)が事前に承認することで、その計画の範囲内であれば「製造販売承認事項軽微変更届出」を提出するだけで改良を認める審査制度です。
従来は性能に関する変更を行う際にその都度一部変更承認申請を行う必要がありました。数ヶ月の審査機関と手数料が負担となっていたことから、そうした負担を軽減し迅速に高性能な医療機器を提供できるよう構築された制度です。
プログラム医療機器は、アップデートを前提に開発されている機器。アプリのアップデートや市販後にその機器によって得たデータを用いた改良が発生します。IDATENによって、AIを活用したプログラム医療機器の市販後の学習による変更が迅速に承認されるようになりました。
また、「先駆的医療機器」に指定された機器が優先的に審査を受けられる制度も発足しました。「治療法または診断法の画期性」「対象疾患の重篤性」「対象疾患に係る極めて高い有効性または安全性」「世界に先駆けて日本で早期開発及び承認申請する意思並びに体制」の要件を満たした機器がPMDAから認定を受けられます。
「DASH for SaMD」というプログラム医療機器の実用化を促進する目的でプログラム医療機器実用化側線パッケージ戦略も法制化されました。開発段階で新しい技術を審査機関が把握しておくというものです。革新的なプログラム医療機器を迅速に審査することがこの制度の目的です。
プログラム医療機器の開発は、多くのスタートアップ企業が関わっており、薬事開発に不慣れな企業も少なくありません。そこで相談先を統一し、参入障壁を取り除くために、開発から保険までの相談先を一元化することも盛り込まれています。
こうした制度改革を経て、2020年に国内初の治療用アプリが薬事承認を受けました。
プログラム医療機器の承認件数は増加傾向です。PMDAによると承認累計件数は2022年1月時点で169件でした。
引用元:MDV EBM insight(https://www.mdv.co.jp/ebm/column/article/31.html)
病気の早期発見、予防段階での異変の検知ができることで、疾病への早期介入が可能となります。早期に行動変容や受診を促すことで、重症化の予防につながります。さらに、重症化を防ぐことで、医療費の削減にも効果的です。
大量のデータを学習したプログラム医療機器が診断精度を高めます。専門医と非専門医の能力差を補助することも可能です。バイタルデータ、手術画像によるリスク予測、術前シミュレーションを用いた手術の安全性向上も期待できます。また、遠隔モニタリングによる術後フォローも可能です。
プログラム医療機器を用いた管理により、受診頻度を抑えることができます。説明業務をプログラム医療機器へ移行させることも可能です。受診回数が減り人による説明業務が削減されることで、臨床業務が効率化できます。
シミュレーションによる詳細なデータを使った教育や臨床研究も可能です。
ただし、個人情報の適性使用やAIの妥当性の担保、サイバー攻撃へのリスクといった懸念事項もあります。安全性を確保した上での開発が求められることも忘れてはいけません。
国内で承認されたプログラム医療機器の中でも承認件数が多いのがAIを活用した画像支援システムです。AIを活用したCADは十数品目承認されています。内視鏡などの画像を大量に学習したAIが病変の重症度や悪性度の判断を支援するシステムのことです。医師の見落としを指摘することも可能。診断精度を向上するシステムです。
病院施設で使用される医療機器ではなく、患者自身が使用するプログラム医療機器が治療用アプリです。生活習慣病や禁煙、精神神経系の疾患が対象の治療目的のスマートフォン用アプリが数件承認されています。日常生活における意識や行動の管理が重要となる疾患に適切な介入をするプログラム医療機器です。
アプリを処方された患者は、治療経過や日々の体調などの項目をアプリに記録します。アプリ内のアルゴリズムではじき出された行動変容や治療に関するガイダンスが提供されます。医療者側もアプリの使用状況や数値の推移の確認が可能。受診と受診の間に治療効果をもたらします。
ウェアラブルデバイスという身につける機器です。抽出したデータをもとに心電図を構築し、波形の異常や不整脈を検知します。病気になるリスクを早期に察知するシステムです。
難病患者の採血データと症状をもとに、各患者に対して治療薬の薬物動態をシミュレーションするプログラム医療機器も承認されています。治療薬の投与感覚と投与量を決定する際の情報提供を目的としたシステムです。
海外では、日本よりスピーディにプログラム医療機器が開発され、市場に流通していっています。プログラム医療機器の中で治療介入を提供するものをDTx(Digital therapeutics)と呼びます。
世界初のDtxは、糖尿病患者の治療アプリで、2010年にアメリカで薬事承認を受けました。日本で最初のDtx薬事承認は2020年で、アメリカよりも10年程度の遅れがあることが分かります。2020年の時点で、AIや機械学習を使ったプログラム医療機器の承認数は、日米比較で5倍の差が指摘されていることも意識すべき事象です。
海外の取り組みに目を向けると、ドイツやアメリカにおいては、臨床的な効果データが完全に蓄積する前に、セキュリティと安全性に重点を置いた要件を満たすことで仮の保険適用の承認を受けることができます。この段階で患者にも処方可能です。一年間の仮承認期間に臨床効果データを蓄積することで保険適用の再申請ができます。これで承認されれば本登録という流れです。
このように、薬事承認を加速させ治療用アプリ開発への参入障壁を下げるための制度が整えられています。
日本でも開発促進のための制度改正は続けられていますが、他国の例を参考にしてさらに障壁を低くできる可能性があります。
プログラム医療機器は、早期発見や受診から受診の間の治療効果向上といったメリットに目が向けられますが、デメリットも意識する必要があります。
まず注意すべきことが、AIの判断がブラックボックスであるということです。AIの判断が妥当かどうかの判断が難しい場合があり、妥当性を証明していくよりも最初から人が判断するほうが早いことがあります。
また、プログラムの宿命として、個人情報漏洩の危険性やサイバー攻撃のリスクがあります。
プログラム医療機器の承認においては、医療機器製造販売の規制をクリアしなければいけません。医療機器を販売しようとする際の手続きには次のようなものがあります。
治療・診断プログラム開発の場合は、医療機器に該当するか否かの判断を厚労省やPMDAが行い、医療機器に該当する場合は、臨床試験などをメーカーで実施します。次に薬事承認・認証を薬事・食品衛生審議会で行い、中央社会保険審議会で保険適用が検討されます。
医療機器の開発・承認手続きは、複数の組織で複数のステップを踏む必要があり煩雑です。煩雑さを軽減してスピーディな承認につなげるため、プログラム医療機器に関する相談窓口は、PMDAに統一されています。
引用元:MDV EBM insight(https://www.mdv.co.jp/ebm/column/article/31.html)
開発段階では、開発している機器が医療機器に該当するのかを判断する必要があります。この判断が難しいという課題があります。保健償還以外でマネタイズしにくいことから、医療機器に該当するかどうかによってビジネスモデルが大きく異なります。医療機器に該当するか判断しづらいということは、開発段階でビジネス戦略が立てにくいことを意味します。また、個人情報の取り扱いが煩雑であることから、良質で十分な医療データを集めることが困難です。
承認段階では、承認審査に時間がかかり見通しが立ちにくいという課題が挙げられます。評価の基準が不明瞭であることが指摘されています。
現行の保健医療制度でプログラム医療機器のメリットが評価されにくいということも課題のひとつです。患者にとってのメリットだけではなく、医療施設側にとってのメリットも考慮しないと導入が進みません。
開発するシステムの目的やどのように医療介入するかを早い段階で明確にして、承認までの見通しを立てることが重要なポイントとなります。PMDAの相談窓口を早期から活用することで、ビジネスモデルを構築できます。
薬事承認の評価基準が分かりにくいという課題もありますが、評価基準はPMDAが情報公開しています。積極的に情報収集することで評価基準も把握できるでしょう。焦点としては次のような点があります。
薬事規制においては、プログラム医療機器は医療機器の基準でクラス分類されます。分類に応じた薬事規制が適用されます。医療機器のクラス分類は、作動不良時に患者にどの程度危害があるかが基準となっています。分類されたカテゴリで承認の難易度が異なるのが特徴です。
診断・治療・予防を目的とする医療機器の中でも、茶道不良時に患者に危害を与えないものは「一般医療機器」に分類されます。このクラスに該当するプログラム医療機器は、厳密にはプログラム医療機器から除外され、薬事承認を受けなくてよいことになっています。
また、診断・治療・予防を目的としないヘルスソフトウェアは、非医療機器です。電子カルテや患者管理、血圧記録、フィットネス用アプリなどが非医療機器に該当し、薬事規制は受けません。
似たような機能を持った商品でも、対象者や治療・診断の介入度によって分類が変わることがあります。医療機器に分類されるかどうかで、保険収載を目指すかといったビジネスモデルや広告規制が異なります。プログラム医療機器の診療報酬に関する評価体系は議論されている最中で、変革期であることを知っておきましょう。
引用元:MDV EBM insight(https://www.mdv.co.jp/ebm/column/article/31.html)
ビジネスモデルを構築する上で重要なのが保険収載です。れる場合は、健康保険からの給付対象になります。健康保険からの給付対象にならない場合、システム導入のコストは病院が負担することになるため、販売する病院が制限されます。ビジネスモデルにおいては保険収載できるかどうかが重要です。
しかし、現状としてはプログラム医療機器の保険収載の難易度は非常に高い状況が続いています。治療の効率性をあげる、行動変容を促すというメリットは新しいことから評価基準に反映されていないことが原因です。プログラム医療機器の普及に影響することはもちろん、保険償還による企業・病院のメリットに直結するため、保険適用基準の整備が課題と言えます。
【このサイトに掲載する会社の選定条件】
2023年2月7日時点、「医療機器 CRO」とGoogle検索して表示された企業、および一般社団法人日本CRO協会の会員企業の中から医療機器向けのCROとしてサービスを提供している22社を掲載しています。
【3選に掲載する会社の選定条件】
22社の公式HPを調査し、以下の条件で3社を選出しました。実績・種類はすべて2023年4月時点のものです。
マイクロン…SaMDの実績(40件)が最も多い。
シミック…第一種製造販売業許可(許可番号:13B1X10146)を取得しており、受託開発した医療機器の種類が最も多い。
IQVIAサービシーズジャパン…再生医療分野において166以上の試験、6,600例以上の実績があり最も多い。