AI医療機器とは、AI(人工知能)を活用して診断支援、画像解析、治療計画などを行う医療機器を指します。従来は医師の経験や勘に頼らざるを得なかった領域においても、AIが客観的かつ迅速な分析を行うことで、医療の質向上・コスト削減が期待されています。
ディープラーニングの発展により、高精度な解析や予測が可能になりました。
高齢化社会に伴う慢性疾患の増加や医師の負担軽減への期待が、AI医療機器の導入を後押ししています。
政府・民間投資家がAI技術に積極的に資金を投入すると同時に、各国の規制当局もAI医療機器の早期実装に向けたガイドラインを整備しはじめています。
これらの背景から、AI医療機器の市場は急速に拡大し、新たなビジネスチャンスが生まれています。
AI医療機器開発を始める際、まず取り組むべきは市場の動向と臨床現場のニーズを正確に把握することです。ここでの分析が不十分だと、後の開発フェーズで大幅な修正や方向転換を迫られる可能性があります。
ニーズが高い領域をリサーチ:がん診断や循環器、眼科領域など、AI技術が特に効果を発揮する分野をリストアップします。
疾患特性の洗い出し:その疾患領域でAIが提供できる価値(精度の高い診断補助、検査結果の効率的な解析など)を明確にします。
具体的なユースケース設定:例えば、「画像解析を自動化し、レポート作成時間を半分に短縮する」「病理診断での見落としを減らす」など、どのような課題をAIで解決するのかを定義します。
既存製品や研究成果の確認:同領域で承認を取得しているAI医療機器や研究段階の製品を調査し、使用技術や実際の有効性・安全性を分析します。
差別化ポイントの明確化:自社製品がどの点で優位性を持つのか(精度、速度、コスト、操作性など)を把握し、開発方針に反映させます。
価格帯や導入障壁の確認:競合製品がどのような価格設定で販売されているか、市場への導入にどのような課題があるかをリサーチし、自社製品のマーケティング戦略を検討します。
医療従事者へのインタビュー:医師・看護師・臨床検査技師など、実際のユーザーから日常業務での課題や改善要望を直接収集します。
患者ニーズの把握:患者が抱える不便・不安を知り、より患者目線で使いやすい製品設計につなげます。
開発コンセプトの具体化:ヒアリング結果をもとに、「高精度な診断支援を行うソフトウェア」「施設間連携を容易にするプラットフォーム」など、製品の方向性を明確化します。
ニーズを把握したら、具体的な機能仕様やスケジュールを含む全体計画を策定します。ここでの計画が曖昧だと、開発後期の手戻りが大きくなり、コストやタイムラインに大きな影響が出る可能性があります。
AIアルゴリズムの検討:ディープラーニング(CNNやRNNなど)、機械学習(SVM、Random Forestなど)、統計的手法をどう組み合わせるかを検討します。
計算リソースの確保:AIモデルのトレーニング環境(オンプレミス環境かクラウド環境か)や推論時の処理速度を考慮し、アーキテクチャを設計します。
安全性・拡張性の設計:ソフトウェア医療機器(SaMD)として長期的にメンテナンス・拡張できる設計を心掛け、将来のバージョンアップを見越した設計を行います。
十分なデータ量の確保:精度の高いAIモデルを構築するためには、大量かつ多様なデータが必要です。病院や研究機関との連携体制を早期に築きます。
品質の高いアノテーション:データに対する正しいラベル付けがAIモデルの性能を左右します。医療専門家による正確なアノテーションと、そのプロセスの管理が不可欠です。
プライバシー・セキュリティ対策:個人情報保護やセキュリティ要件を満たすために、データの匿名化・暗号化などを徹底します。
潜在的リスクの洗い出し:AIモデルの過学習やデータの偏り、ハードウェアトラブルなど、開発段階で想定されるリスクを一覧化します。
対策プランの策定:リスクごとに優先度を設定し、回避策や緩和策を検討。定期的に見直しを行い、早期対応できる体制を構築します。
品質管理システムとの連携:ISO13485などの医療機器品質マネジメントシステムと連動し、継続的に品質を改善できる仕組みを導入します。
AI医療機器は、一般的なソフトウェアとは異なり「医療機器」として扱われるため、国内外の厳格な規制要件を満たす必要があります。
PMDAとの連携:医薬品医療機器等法(薬機法)に基づき、PMDAが承認・審査を行います。ソフトウェア単体の医療機器(SaMD)としての扱いが多く、早期の事前相談が開発効率化に有効です。
ガイドラインの活用:AI技術特有の注意点(継続学習、バイアス管理など)を盛り込んだ最新ガイドラインを把握し、開発計画に反映します。
FDA(米国):医療機器のクラス分類や、510(k)、De Novo、PMAなどの申請ルートを確認し、適切な承認戦略を立案します。
CEマーク(欧州):欧州医療機器規則(MDR)に基づく審査を通過する必要があります。ソフトウェア医療機器に特化した規定があるため、要件を詳細に確認します。
各国の異なる要件の把握:グローバル展開を視野に入れる場合は、地域ごとに異なる規制要件を早期に調査し、ドキュメント作成や臨床試験設計を調整します。
AI医療機器の有効性と安全性を証明するために、しっかりとした臨床試験を実施し、承認取得に必要なエビデンスを構築します。
目的とエンドポイントの明確化:例えば「病変検出率の向上を確認する」「診断時間の短縮を検証する」など、試験のゴールを定義します。
症例数の決定:統計学的有意差を得るために必要な症例数を算出し、試験期間やコストを含む計画を立案します。
対象患者・施設の選定:特定の患者層に限らず、多様な背景を持つ患者を含むなど、製品適応範囲を考慮した試験設計を行います。
データセットの多様性:年齢・性別・人種など、さまざまな属性を含むデータを収集し、モデルの汎用性を評価します。
モデルの公平性チェック:特定の集団に対して不正確な予測をしていないか、追跡調査を実施します。
フィードバックループ管理:臨床試験から得られたフィードバックをモデルに再学習させる際、過学習や新たなバイアスが生じないよう適切に管理します。
再現性と精度の検証:同一データセット、異なるデータセットの両方でモデルを検証し、再現性を確認します。
医療従事者との協業体制:AIが提示した結果を医師がどのように参照し、最終判断に反映しているかを確認し、ユーザーインターフェースの改善や教育研修の要件を整理します。
承認申請に必要な情報収集:試験結果の統計解析、リスク評価、ユーザー向け使用説明書など、承認審査に向けたドキュメントを整備します。
臨床試験で得られたエビデンスをもとに規制承認を取得した後は、実際の市場投入に向けた準備を行います。
訴求ポイントの明確化:医療機関や患者にとってどのようなメリットがあるのか(診断の正確性向上、コスト削減、診療効率化など)を整理し、製品の強みを打ち出します。
販売チャネルの選定:代理店経由か自社直販か、あるいはオンラインプラットフォームを活用するのかなど、ターゲット顧客に最適なチャネルを検討します。
価格設定:保険適用の可能性や市場価格とのバランスを踏まえ、適切な価格体系を設計します。
導入支援プログラム:医療機関がスムーズに製品を使用開始できるよう、インストールや初期教育、運用サポートの体制を整えます。
医療現場での活用研修:医師やスタッフに対して、AI医療機器の仕組みや注意点を伝えるトレーニングを実施し、現場での活用度を高めます。
ユーザーコミュニティ・フィードバック:使用感や改善要望を収集し、次世代製品や機能アップデートに反映します。
継続的な学習とモデルアップデート:新しいデータを取り込み、定期的にモデルを更新することで性能向上を図ります。その際、規制当局への再申請が必要かどうかを慎重に判断します。
製品安全性のモニタリング:市販後調査(PMS)や不具合報告システムを整備し、リアルワールドデータ(RWD)のフィードバックを製品改良に活かします。
長期的なリレーション構築:顧客との信頼関係を維持し、追加機能や新製品の提案を行うことで、新たな価値を提供していきます。
医療データは個人情報が多いため、取得・活用のハードルが高くなりがちです。
国や地域によって規制やガイドラインが異なるため、グローバル展開を目指す場合は対応が複雑になります。
一度承認を得ても、AIは学習し続けるため、バージョンアップの際に再承認が必要となる場合があります。
CRO(Clinical Research Organization)は、医療機器や医薬品の臨床試験・開発を専門的に支援する組織です。企画立案から倫理委員会対応、プロジェクト管理、最終的な申請書類作成まで、開発プロセス全般をサポートします。
規制要件や臨床試験デザインに精通しているため、スムーズな開発が可能になります。
開発企業が自社のコア技術に集中でき、社内リソースを効率的に配置できます。
海外規制に詳しいCROであれば、海外市場への対応がスピードアップします。
市場ニーズや規制要件の整理など、早期段階での助言が後々の手戻りを減らします。
試験デザインや症例数、エンドポイント設定など、専門家の意見を仰ぐことで適切な試験を実施できます。
書類の作成やPMDAとの折衝など、最終的な手続きもCROがサポートしてくれます。
AI医療機器の開発には、市場分析から開発計画、規制対応、臨床試験、商業化まで一貫した戦略が必要です。特に、AI技術を医療分野に適用する際には、膨大なデータの取り扱いや厳格な規制対応、そしてモデルの継続的アップデートという固有の課題が存在します。こうした課題に対して、医療機器CROを活用することで開発効率を高めると同時に、スムーズな承認取得を目指すことが可能です。
AI医療機器開発を検討している企業の方は、是非早い段階でCROへ相談し、リスクを最小化しながら革新的な製品を世に送り出してください。国内外の規制やデータマネジメントに精通した専門家の力を借りることで、AI医療機器の可能性を最大限に引き出すことができるでしょう。
【このサイトに掲載する会社の選定条件】
2023年2月7日時点、「医療機器 CRO」とGoogle検索して表示された企業、および一般社団法人日本CRO協会の会員企業の中から医療機器向けのCROとしてサービスを提供している22社を掲載しています。
【3選に掲載する会社の選定条件】
22社の公式HPを調査し、以下の条件で3社を選出しました。実績・種類はすべて2023年4月時点のものです。
マイクロン…SaMDの実績(40件)が最も多い。
シミック…第一種製造販売業許可(許可番号:13B1X10146)を取得しており、受託開発した医療機器の種類が最も多い。
IQVIAサービシーズジャパン…再生医療分野において166以上の試験、6,600例以上の実績があり最も多い。