スマートフォンやタブレットなど、デジタルデバイスの普及に伴い、医療用ソフトウェアを活用した治療(デジタルセラピューティクス、以下DTxとも呼ばれる)が世界的に広がりを見せています。患者自身の生活環境の中で継続的なケアができるメリットは大きく、慢性疾患や生活習慣病などの行動変容が重要な領域に特に注目が集まっています。
日本国内でもデジタル技術を活用した医療機器プログラム(SaMD)が次々に登場し、高血圧治療補助アプリなど、一部のアプリが既に保険適用(保険収載)に至るなど、大きな話題を集めました。患者の費用負担が軽減されれば、さらなる治療継続率の向上が見込めますし、医療現場のデジタルトランスフォーメーション(DX)推進にも大きく寄与します。こうした流れから、「治療用アプリの保険適用」は今、医療機器業界やヘルスケア業界にとって見逃せないテーマとなっています。
治療用アプリは、医療機器プログラム(Software as a Medical Device: SaMD)と位置づけられるケースが多いです。従来の医療機器と異なり、ハードウェアではなくソフトウェア単体が医療を目的とする医療機器として扱われます。
血圧計や内視鏡のように目に見える「器具・装置」として扱われるため、製品化・市販化のプロセスが明確化されてきました。
モバイルアプリやクラウド環境で動くことが多く、バージョン更新や追加機能の実装時に薬事対応が必要となるなど、新しい制度上の課題を抱えています。
治療用アプリとしての有効性・安全性を示すため、臨床試験(治験)やデータ解析結果をもとにPMDAへ申請し、承認を得ます。
PMDA承認を受けた後、診療報酬の改定時期などに合わせて中医協で保険収載の可否や点数が議論されます。
中医協が適用を認めると、厚生労働省が公示し、診療報酬点数表に反映されます。その結果、保険診療として治療用アプリの提供が可能になります。
日本で初めて高血圧治療補助アプリとしてPMDA承認を取得し、保険適用に至った「CureApp HT」は、治療用アプリの先駆的事例です。高血圧症患者に対して生活習慣の改善を支援することで、投薬のみでは不十分な部分を補うことが期待されています。
医療保険制度は定期的に改定が行われ、デジタル治療の普及にあわせて診療報酬の枠組みが整備されつつあります。今後も慢性疾患や精神疾患、禁煙治療などで、アプリを活用した治療介入に評価が加わる可能性があります。海外では既に複数のDTx製品が保険適用されている例もあり、日本の制度面での追随が期待されているところです。
自費で高額になりがちな医療アプリでも、保険収載されれば患者の自己負担割合が下がり、治療を継続しやすくなります。
生活習慣病や慢性疾患の重症化を防ぐことで、将来的な医療費抑制が期待されます。
保険適用となると医療機関での利用が促進され、普及率が高まりやすくなります。
ソフトウェアによる治療効果を定量的に示すには、適切なアウトカム指標と治験デザインが重要です。
ソフトウェアの改修が頻繁に行われる場合、その都度、薬事対応や再審査が必要となるケースもあります。
個人の医療情報を取り扱うため、高いセキュリティ水準やデータ保護体制の整備が必須です。
新たな治療法が保険適用となるには、中長期でのコスト削減や医療アウトカム改善の実績を示すことが不可欠です。
まずは自社アプリの対象疾患やリスク分類を明確にし、プログラム医療機器としてどのような方向性で承認を得るのかを検討します。国内外のガイドラインや類似製品の承認例も参考に、申請時に必要なエビデンスづくりの計画を立てましょう。
臨床試験を計画する際には、評価項目の設定やプロトコール作成が重要です。ソフトウェアの特性上、プラセボ対照試験や二重盲検など、既存の治験手法をそのまま適用できない場合もあります。専門家や臨床研究機関との連携を早めに検討することが望ましいです。
得られた臨床データを基に、PMDAへ申請を行います。ソフトウェアならではの申請資料(バージョン管理やアルゴリズムの説明)や治験結果をきちんとまとめ、必要に応じてPMDAとの事前相談(開発前相談や対面助言)を活用するとスムーズに進められます。
PMDA承認後は、中医協での審議を経て保険収載の可否と費用対効果が検討されます。臨床的有用性や経済評価を示しながら、医療現場での普及見込みなどをアピールすることが鍵となります。
治験設計から規制対応、申請書類作成まで、医療機器開発の各プロセスをサポートするのがCRO(Contract Research Organization)です。治療用アプリ(SaMD)の実績を持つCROを活用すると、保険適用に向けた要件整理や臨床試験の進行管理を効率的に進められます。
社内に薬事・臨床試験の専門人材がいなくても、CROの専門知識を活用できる。
デジタル医療機器の申請・承認に特化したCROなら、過去事例をもとに適切な戦略を立案。
グローバル展開を視野に入れる場合、FDAやCEマーキングの取得支援も一括して行うCROを選べる。
高血圧や禁煙治療だけでなく、糖尿病、心不全、メンタルヘルス分野など多様な領域でデジタルセラピューティクスの可能性が注目されています。医療アプリが果たす役割は、今後さらに拡大するでしょう。
保険適用を含む薬事規制は国によって異なるため、海外展開を視野に入れる企業はグローバル規制への対応が欠かせません。治療用アプリを一度承認取得した後も、バージョンアップや機能追加時には再度承認や届出が必要となる場合があるため、長期的な視野での国際戦略が求められます。
一度保険収載されたアプリでも、その後のエビデンス拡充や市販後調査(PMS)が求められます。医療現場で広く使われ続けるためには、アップデートの際の薬事対応や利用者への周知、医師への教育が重要です。ただし、これらの課題をクリアし普及が進めば、医療費削減や患者のQOL向上に大きく貢献すると期待されています。
治療用アプリ(DTx)は、患者が自宅や日常生活の中で治療を継続できるという大きなメリットを持ち、社会課題化している慢性疾患や生活習慣病の行動変容サポートに特に効果を発揮します。
さらに、保険適用(保険収載)によって患者負担が軽減されれば、アプリを利用しやすい環境が整い、企業としても新たな事業機会を得ることにつながるでしょう。
ただし、保険適用までの道のりは、臨床試験や薬事申請、診療報酬化へのプロセスなど、多岐にわたる課題があります。そこで、医療機器開発に精通したCROの力を借りることで、専門性の高いノウハウを短期間で導入し、リスクを最小化しながらスピーディーに開発を進めることが可能です。
今後はさらなる疾患領域や新たなデジタル技術との融合など、治療用アプリを取り巻く環境は日々進化していくでしょう。最新の保険制度や規制動向を常にキャッチアップしながら、革新的なプロダクトを世に送り出す取り組みが、医療業界全体のDX推進に大きく貢献すると考えられます。
【このサイトに掲載する会社の選定条件】
2023年2月7日時点、「医療機器 CRO」とGoogle検索して表示された企業、および一般社団法人日本CRO協会の会員企業の中から医療機器向けのCROとしてサービスを提供している22社を掲載しています。
【3選に掲載する会社の選定条件】
22社の公式HPを調査し、以下の条件で3社を選出しました。実績・種類はすべて2023年4月時点のものです。
マイクロン…SaMDの実績(40件)が最も多い。
シミック…第一種製造販売業許可(許可番号:13B1X10146)を取得しており、受託開発した医療機器の種類が最も多い。
IQVIAサービシーズジャパン…再生医療分野において166以上の試験、6,600例以上の実績があり最も多い。