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なぜAI医療機器にガイドラインが必要なのか

AI技術が急速に発展するなかで、医療機器への応用は画像解析、診断支援、予後予測など幅広い領域に広がっています。従来では不可能だった高精度かつ迅速な診断を実現する一方、AI特有のリスクや課題も浮上しています。たとえば、学習データやアルゴリズムの不透明さによる安全性・有効性への懸念、更新を繰り返すモデルの管理方法などです。

これらのリスクを適切にコントロールし、安心して医療現場へ導入するために各国の規制当局はガイドラインを整備しています。ガイドラインを理解・遵守することは、AI医療機器を合法かつ安全に市場へ投入し、医療従事者と患者の信頼を得るための必須要件だといえるでしょう。

日本におけるAI医療機器のガイドライン

日本では、厚生労働省とPMDA(医薬品医療機器総合機構)が医療機器の承認・管理を担っており、AI医療機器に関してもソフトウェア医療機器(SaMD)の枠組みでルールが定められつつあります。

SaMD(ソフトウェア医療機器)に関する指針

ソフトウェア単体で医療機器としての機能を持つ場合、従来のハードウェアとは異なる観点での安全性・有効性評価が必要です。具体的には、モデルの性能をどのように検証するか、バージョンアップ時に安全性が維持されるか、データのバイアスを排除できているかといった点が重視されます。

薬機法とAI

AI医療機器は、薬機法に基づきリスク分類(クラスI~IV)が行われ、クラスの高さに応じて要求される臨床データや申請手続きが異なります。AI技術を用いる場合は、想定外のリスクを十分洗い出し、変更管理や再申請のタイミングを把握しておくことが不可欠です。

モデルアップデートの審査対応

AIは継続学習によって性能を向上させる特性があるため、アップデート時に生じうるリスクに関してガイドラインでも言及されています。アップデート内容が製品の安全性・有効性に影響すると判断される場合、追加の申請や届け出が必要となるケースも考慮すべきでしょう。

米国・欧州のガイドライン動向

(1) FDA(米国)の対応

米国のFDA(食品医薬品局)は、AI/ML(機械学習)ベースの医療機器に関して積極的にガイダンスを公表しています。特に「Predetermined Change Control Plan」と呼ばれる継続学習対応の概念を提案し、AIが学習・進化するプロセスをどのように管理・審査していくかの方針を示しています。

さらに、医療機器のリスクレベルに応じてクラスI~IIIに分類し、510(k)、De Novo、PMA(Pre-Market Approval)といった複数の申請ルートを設けています。どのルートを選択するかは製品のリスクや革新性によって異なるため、開発初期にFDAへ事前相談を行い、最適な進め方を検討することが重要です。

(2) 欧州(CEマーク/MDR)

欧州連合においては、MDR(欧州医療機器規則)にもとづいて医療機器の審査を行い、CEマークを取得することで域内での販売が可能となります。従来よりもソフトウェア医療機器への規制が強化され、リスククラス分類や臨床エビデンスの要求が厳格化されました。

今後は、AIへの対応を検討する「EU AI Act」の提案もあり、CEマーク取得とAI特有の規制との整合性をどう図るかが焦点になっています。技術文書や臨床評価報告書には、AIモデルの透明性や更新計画を明確化することが求められるでしょう。

ガイドラインに共通する着眼点と実務上のポイント

AI医療機器のガイドラインは国や地域ごとに細部が異なりますが、いくつかの共通する着眼点があります。

  1. データ品質の確保

    開発企業は、学習・検証・評価データのバランスや多様性を十分に確保する必要があります。不十分なデータや偏ったデータは、バイアスや不正確な結果を招きかねません。

  2. 説明可能性(Explainability)

    AIモデルの推論過程がブラックボックスにならないよう、医療従事者が理解できるレベルで出力根拠を示す必要があります。説明可能なAI(XAI)の実装が一層重視される傾向にあります。

  3. 継続学習・アップデート管理

    一度承認を得ても、モデルが更新されることで性能やリスクプロファイルが変化する可能性があります。ガイドラインでは、変更管理プロセスや再承認の要否を評価する体制づくりを推奨しています。

  4. リスクマネジメント

    ISO14971などの規格に基づき、開発段階から運用・市販後に至るまで、想定されるリスクを体系的に洗い出して対策を講じることが求められます。AI固有のリスク(過学習、データドリフトなど)も考慮しましょう。

  5. 市販後監視(PMS)とリアルワールドデータ活用

    実際の使用環境で得られるリアルワールドデータ(RWD)を収集し、製品の安全性・有効性を継続的に評価する仕組みを構築することが大切です。不具合や苦情対応だけでなく、製品改良にもつなげられます。

今後の規制動向と企業が取るべき対応

AI医療機器はグローバルな視点でも新しい領域であり、国際整合の動きが加速しています。IMDRF(国際医療機器規制当局フォーラム)やISO、WHOといった国際機関が、AIを含むソフトウェア医療機器の規制ガイドライン策定や標準化を進めています。

企業としては、ガイドラインの最新動向を常にウォッチし、製品設計や申請準備に反映する体制が欠かせません。AIモデルが進化するほど規制も柔軟化や厳格化が繰り返されるため、情報収集を怠れば承認取得に遅れをとるリスクがあります。

ガイドライン対応におけるCRO活用のすすめ

複数国・地域のガイドラインに同時対応するのは想像以上に複雑で、特にAI固有の課題であるモデル更新やデータ管理などを整理するには、高度な専門知識を要します。そこで注目されるのが、医療機器CRO(Contract Research Organization)の活用です。

  • 規制要件の解釈と文書作成支援

    各国規制を精査し、臨床試験デザインや技術文書の作成をサポートしてくれるため、企業側はコアのAI開発に集中しやすくなります。

  • 多国間展開のサポート

    FDAやCEマークなど、複数の申請手続きが同時進行で必要なケースでも、経験豊富なCROならプロジェクト全体を効率よくマネジメント可能です。

  • モデル評価とリスクマネジメント

    AI医療機器に精通したCROは、バイアス検証やモデルの追跡管理など独特の課題にも慣れており、円滑に承認を目指せます。

まとめ

AI医療機器のガイドラインは、製品を制限する枠組みというより、安全で有効な医療機器を社会へ送り出すための設計図ともいえます。国内外で策定されるルールを正しく理解し、データ品質やモデルの透明性、アップデート管理などの要件を満たすことで、患者や医療従事者からの信頼を獲得しやすくなります。

さらに、ガイドラインの要点を踏まえたうえで、医療機器CROを活用することは大きなメリットがあります。専門家の知見とプロジェクトマネジメント力を借りることで、最新の規制動向に対応しながらスムーズに承認取得を進められるでしょう。AI技術の強みを生かしつつ、安全性と有効性を両立させた医療機器を市場へ投入するためにも、ガイドラインへの深い理解と最適なパートナーとの連携を検討してみてはいかがでしょうか。

THREE SELECTIONS
⽤途で選ぶ医療機器CRO3選
医療機器向けのCROとしてサービスを提供している会社の中から、「医療機器(デジタル領域)」「医療機器(器具‧用品)」「細胞治療製品」の3つの用途に分けて、おすすめの会社を紹介します。
医療機器(デジタル領域)
開発なら
マイクロン
マイクロン
引用元:マイクロン公式HP
(https://micron-kobe.com/)
対象
  • スマホ、PCを介した医療系ソフトウェア
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  • AIを使った疾患の予測、診断プログラム など
CROの特徴
  • 40件以上のプログラム医療機器(SaMD)の開発実績、アイデアを形にするべく支援
  • CTやMRI、ヘルスケアアプリまで、様々な診断・治療プログラムを開発
医療機器(器具‧⽤品)
開発なら
シミック
シミック
引用元:シミック公式HP
(https://www.cmicgroup.com/)
対象
  • 血管吸引カテーテル、ステントグラフト等の機械器具
  • 造影剤用輸液セット、インスリン注入器等の医療用品
  • インプラント、歯科用ユニット等の歯科材料 など
CROの特徴
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細胞治療製品
開発なら
IQVIAサービシーズ
ジャパン
IQVIAサービシーズジャパン
引用元:IQVIAサービシーズジャパン公式HP
(https://www.iqvia.com/ja-jp/locations/japan)
対象
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  • 神経系再生製品
  • 循環器再生製品 など
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シミック…第一種製造販売業許可(許可番号:13B1X10146)を取得しており、受託開発した医療機器の種類が最も多い。
IQVIAサービシーズジャパン…再生医療分野において166以上の試験、6,600例以上の実績があり最も多い。